東京大学は女性に人気がないだけのこと・・・ 敬愛する先輩の若林秀樹さん(東京理科大学MOT主任教授)から、前回稿へのお励ましの私信とともに「女子学生比率」、とりわけ東京大学の話題を振っていただきました。 当該案件については長年思うことがあり、今回はこれを取り上げてみたいと思います。 社会では、何の責任も持たない人が「東大はなぜ『女子2割』の壁を超えられない」(https://dot.asahi.com/dot/2022042800013.html?page=1)などと興味本位な見出しを立て、「男性中心の東大が社会の偏りを生む」などと、読者が溜飲を下げそうな記事を出稿しています。

しかし、当事者の観点から言わせてもらえれば冗談ではないというのが正直なところです。 今回は「東大女子2割の壁」なるものが、高々大学の自助動力程度でどうにかなるような代物ではないことを具体的に説明しましょう。 本当に日本を変えていきたいのなら、抜本的な雇用体制からの変革がなければ不可能です。 なお、念のために書き添えますが、東京大学伊東研究室は女子学生率100%、男は私しかいないラボラトリーで、それなりに高い生産性を保っています。 私見では、しっかりしているのは留学生女子、一番だらしないのが日本人の男子というのが東大生活40年になる私の実感するところです。[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]「店が力めば顧客が増える」なら苦労しない そもそもこの種の議論の困った点は、大学そのものの「不人気」がどこかに棚上げになっていることにあります。 きちんとデータを積み上げて示してみましょう。 まず日本人の男女比、出生時にはほぼ五分五分で(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai08/sankou3.html)、歳を経るにつれ女性の方が寿命が長いですから、男性が劣勢になっていく。 次に大学進学率。平成28年内閣府のデータ(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s05_01.html#:~:text=%E5%A4%A7%E5%AD%A6%EF%BC%88%E5%AD%A6%E9%83%A8%EF%BC%89%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%AD%A6,%E3%81%AF57.1%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82)では、男子進学率55.6%に対し女子進学率48.2%。 これに女子の短大進学率8.9%を加えれば女子全体の「大学等進学率」は57.1%となって男子を抜き、決して女子の教育リテラシーが不当に低く抑えられていないのがはっきり分かります。 では問題の「東京大学」についてはどうなのか? 2022年の東大合格者の男女割合は、東大合格者男子割合80.2%に対し女子割合19.8%となっており、なるほど「2割の壁」を超えられていない。 しかしそれには明確な理由があります。そもそも東大は女子の受験者数が少ないのです。 2022年に関して(https://juken.y-sapix.com/articles/25467.html)は、東大受験生男子割合77.7%に対し女子割合22.3%と、最初から2割強しか東大なんか女子は受けてくれない。 ここに第1の本質的な理由があります。これはこの年だけのことではありません2019年の東大受験生、男子割合79.3%:女子割合20.7%2020年の東大受験生、男子割合79.5%:女子割合20.5%2021年の東大受験生、男子割合79.6%:女子割合20.4%2022年の東大受験生、男子割合77.7%:女子割合22.3% つまり東大入試そのものが「男4:女1」という受験生男女比になっており、それをそのまま反映して合格者も4:1あるいは8:2、つまり女性2割という割合が「入力そのまま」の形で反映されているだけと分かります。「どうして東大受験、女子は少ないの?」というのは、大昔から言われ続けている点で、やれ「東大女子は結婚に苦労する」だの「現浪割合が男3:1に対して女5:1」だの、様々な説が囁かれてきました。 しかし、ここではこれ以上踏み込んでも仕方ないのでやめておきます。 要するに「女子に不人気」なんですね東大は。お店に例えれば、女性に人気のない店がいくら「顧客を増やすぞ~」と鼻息荒く力んで見せても、実際に人気が出なければどうしようもありません。 ではどうしたら、大学は女子学生割合を増やすことができるのか? 一つのカギは「出口」にあります。もう一つの関門:総合職男女比 一般的な意味で、大学の「出口」は就職になるでしょうから、企業採用の男女比を検討してみましょう。 厚労省のデータ(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-28r-09.pdf)によると、正社員・正職員に占める女性割合は24.8%で、このうち総合職の割合は18.4%となっています。 そして、限定総合職が30.9%、一般職が31.5%、その他が24.1%という数字が確認できます。 これは平均値なので、内閣府の統計(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/gaiyou/html/honpen/b1_s00_03.html#:~:text=%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A15%2C000%E4%BA%BA%E4%BB%A5%E4%B8%8A,%E3%81%AF5.6%EF%BC%85%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82)などでもう少し追って行くと、 女性のライフイベントによる就業形態の変化(平成23年)として、正規雇用:結婚前64.2%→結婚後43.6%→第1子出産後19.8%→第2子出産後13.9%といった推移が見て取れます。 先ほどの「総合職20%」がそんなにいい加減に出来上がっている数値でないことが分かってきます。 つまり「東京大学女子学生2割の壁」なる現状には、最低で見積もっても、受験生女子比率20%→在学生女子比率20%→就職後総合職女子比率20%という、需給関係における一通りの「エコシステム」が出来上がっており、掛け声程度のことで変わるわけがない堅固な構造なのです。 何も昨日今日から言い出したことではなく、私自身学生時代からかれこれ40年ほどこの大学と関わりながら率直に思うところであって、社会の一セクターがイメージチェンジを図る程度のことで動くような代物ではない。 だから何もしなくてよいのだなどと言っているわけではないのは、冒頭にも記した通り、現在もっぱら女子ばかりの研究室をこの大学で率いていることでもお分かりいただけると思います。 また、はっきり言って東大がそんなに良い所だとも思っていません。 というのも、総合職向けで専門に必ずしも強くなく、19世紀に日本で最初に作られたこの大学システムが21世紀の人材育成に適しているとはちっとも思わないからです。構造的に凡庸秀才を生むシステム 東京大学という教育機関は、大まかに「文科」と「理科」の学生を分けて採用しますが、それ以上細かな専門を分けず、幅広く深く「一般教養」を身に着けさせる、19世紀以前からの「古き良き?」教養志向の高い大学になっています。 学生は文科砧爐箸理科粁爐箸い辰燭兇辰りとした分類で入学を許可され、針の穴を通すような専門は後回しで、大らかな知的教養の幅を広く身に着ける・・・という建前です。 加えて私などは、そういう東大の中でも教養でうるさい方だと認識されて四半世紀ほど経過しており、以下のようなことを言うとかえって意外に思われることがあります。「東大生は専門に必ずしも強くない」「*学部〇〇学科卒」といっても2年生の後期まではそこに進学が決まっておらず、20歳を過ぎてから初めて「バイオ」だの「法学」だの「電気電子」だの「経済」だのといった専門にタッチする。 逆に言えば、10代いっぱい全く素人だった分野で「にわか専門家」扱いされるようになるのです。 平均点で見ると決して低くない。でもどれか一つ、本当に抜きん出たものがあるかと問われると、ペーパーテストで満点が取れる程度で止まる、凡庸な秀才が大半を占める学校。それが東大の実際の姿です。 太宰治とか三島由紀夫とか大江健三郎といった人が東大OBなのは、たまたまほかに大学が少なく、才能を持った人が受験してくれたからであって、東大は何も育てていない。 京都大学と比較して圧倒的に少ないノーベル賞の数も雄弁な傍証になっている。 高等専門学校とか、あるいは東工大などに入ってくるロボット命少年とか、そういう筋金入りの本物と比較すると、およそ頼りない「全方位外交平均点秀才」が大半を占めています。 それが適宜「管理職」に進む「官学」というのが、現時点でも東京大学の過不足ない現実で、これがそのまま男女比50%になったから、日本が良くなるなんてことは、およそ考えられない。 国会で答弁する女性高級官僚、どうですか? 内容を理解して理路整然と語る人をどの程度見かけますか? 百年一日のごときトートロジー、同語反復の官僚答弁に終始するのは内容をちっとも理解していないからで、その本質は「20歳まで全方位素人」という東大の弱点そのものが現れているからにほかなりません。 四半世紀ほど前、私が東大に着任した際、工学部長だった小宮山宏さんのもとで私が手掛けた人材育成は「21世紀の東大にゼネラリスト養成は要らない。ゼネラルな業務ができるスペシャリストこそ育てるべきだ」という、本質的な施政方針転換がありました。 しかし爾来20余年、日本は、あるいは東大はそんな方向にいささかでも変われたでしょうか? 小宮山さん自身が経産次官室の考えで産業技術総合研究所理事長を忌避され民間の三菱総研へ、といった話はあちこちで喧伝された通りで、日本は「中身が分かり、本当に変革を進めていける人材育成」にちっとも前向きではない。 大過なく前例を踏襲してそつなく書類を右から左に送るオヤジ化したオバサンを量産して、何の意味があるのか?「コトナカレ官僚」が日本をこんな状態に貶めてしまった現実を前に、性別だけ女性で中身がその種の役人管理職を増やして、何か良い変化を期待する方がどうかしています。 また、女性が社会で活躍可能な専門能力を持つべきというのは、父の死後、母の手で育てられた私の個人的信念でもあります。 英語教師という専門能力がなければ、私の母は到底私を今のようには育て切らなかったでしょう。 だから思うのです。東大が過去の体質のまま、女子学生の割合だけ増やすようなアクションをとっても、構造的なエコシステムができていますから身動きなど取りにくい。 そうではない、しっかりした一芸以上のものを身に着けた、パワフルな女性スペシャリストを日本全体が育成していくべきなのです。 そのような中からゼネラルな業務にも向いた女性スペシャリストが輩出し、社会も実質的に変わっていく。 出来上がり切ったこの「エコシステム」に楔を打ち込むのは「圧倒的な現場専門能力」にほかなりません。 例えば音楽の世界は実力本位、依怙贔屓など不正がないとは言いませんが、ジェンダーでは差別になりません。うちの研究室が男女完全平等になる背景でもあります。 打ち込む楔は、まず専門における圧倒的実力。そういう女子を育てる。これに尽きます。「東大が変わらない」と「変わらない日本」などという大前提が根本的に間違っているのです。 幸か不幸か、いまもって同世代国内人口の比較優位な人が受験し続けてくれていることで、東大は何とかその水準を保っているけれど、国際的には地盤沈下も著しい。 優秀な若い人に見向きされなくなったらそれまでで、実際、東アジア全域の優秀な人材は基本、欧米の一流大学大学院を志望して人の流れが出来上がっている。 ここにもエコシステムが成立しているわけです。 実力ある人がそれを発揮して活躍できる社会を作らなければ、何を言っても唇寒しです。 大学の表層だけすこし衣替えして見せたところで、どれほど本質的な意義ある効果が期待できるでしょう? 研究教育の現場当事者としては、一見さんの気を惹く「東大女子」問答の軽薄さばかりが目に付くというのが正直なところです。筆者:伊東 乾
敬愛する先輩の若林秀樹さん(東京理科大学MOT主任教授)から、前回稿へのお励ましの私信とともに「女子学生比率」、とりわけ東京大学の話題を振っていただきました。
当該案件については長年思うことがあり、今回はこれを取り上げてみたいと思います。
社会では、何の責任も持たない人が「東大はなぜ『女子2割』の壁を超えられない」(https://dot.asahi.com/dot/2022042800013.html?page=1)などと興味本位な見出しを立て、「男性中心の東大が社会の偏りを生む」などと、読者が溜飲を下げそうな記事を出稿しています。
しかし、当事者の観点から言わせてもらえれば冗談ではないというのが正直なところです。
今回は「東大女子2割の壁」なるものが、高々大学の自助動力程度でどうにかなるような代物ではないことを具体的に説明しましょう。
本当に日本を変えていきたいのなら、抜本的な雇用体制からの変革がなければ不可能です。
なお、念のために書き添えますが、東京大学伊東研究室は女子学生率100%、男は私しかいないラボラトリーで、それなりに高い生産性を保っています。
私見では、しっかりしているのは留学生女子、一番だらしないのが日本人の男子というのが東大生活40年になる私の実感するところです。
[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]「店が力めば顧客が増える」なら苦労しない そもそもこの種の議論の困った点は、大学そのものの「不人気」がどこかに棚上げになっていることにあります。 きちんとデータを積み上げて示してみましょう。 まず日本人の男女比、出生時にはほぼ五分五分で(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai08/sankou3.html)、歳を経るにつれ女性の方が寿命が長いですから、男性が劣勢になっていく。 次に大学進学率。平成28年内閣府のデータ(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s05_01.html#:~:text=%E5%A4%A7%E5%AD%A6%EF%BC%88%E5%AD%A6%E9%83%A8%EF%BC%89%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%AD%A6,%E3%81%AF57.1%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82)では、男子進学率55.6%に対し女子進学率48.2%。 これに女子の短大進学率8.9%を加えれば女子全体の「大学等進学率」は57.1%となって男子を抜き、決して女子の教育リテラシーが不当に低く抑えられていないのがはっきり分かります。 では問題の「東京大学」についてはどうなのか? 2022年の東大合格者の男女割合は、東大合格者男子割合80.2%に対し女子割合19.8%となっており、なるほど「2割の壁」を超えられていない。 しかしそれには明確な理由があります。そもそも東大は女子の受験者数が少ないのです。 2022年に関して(https://juken.y-sapix.com/articles/25467.html)は、東大受験生男子割合77.7%に対し女子割合22.3%と、最初から2割強しか東大なんか女子は受けてくれない。 ここに第1の本質的な理由があります。これはこの年だけのことではありません2019年の東大受験生、男子割合79.3%:女子割合20.7%2020年の東大受験生、男子割合79.5%:女子割合20.5%2021年の東大受験生、男子割合79.6%:女子割合20.4%2022年の東大受験生、男子割合77.7%:女子割合22.3% つまり東大入試そのものが「男4:女1」という受験生男女比になっており、それをそのまま反映して合格者も4:1あるいは8:2、つまり女性2割という割合が「入力そのまま」の形で反映されているだけと分かります。「どうして東大受験、女子は少ないの?」というのは、大昔から言われ続けている点で、やれ「東大女子は結婚に苦労する」だの「現浪割合が男3:1に対して女5:1」だの、様々な説が囁かれてきました。 しかし、ここではこれ以上踏み込んでも仕方ないのでやめておきます。 要するに「女子に不人気」なんですね東大は。お店に例えれば、女性に人気のない店がいくら「顧客を増やすぞ~」と鼻息荒く力んで見せても、実際に人気が出なければどうしようもありません。 ではどうしたら、大学は女子学生割合を増やすことができるのか? 一つのカギは「出口」にあります。もう一つの関門:総合職男女比 一般的な意味で、大学の「出口」は就職になるでしょうから、企業採用の男女比を検討してみましょう。 厚労省のデータ(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-28r-09.pdf)によると、正社員・正職員に占める女性割合は24.8%で、このうち総合職の割合は18.4%となっています。 そして、限定総合職が30.9%、一般職が31.5%、その他が24.1%という数字が確認できます。 これは平均値なので、内閣府の統計(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/gaiyou/html/honpen/b1_s00_03.html#:~:text=%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A15%2C000%E4%BA%BA%E4%BB%A5%E4%B8%8A,%E3%81%AF5.6%EF%BC%85%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82)などでもう少し追って行くと、 女性のライフイベントによる就業形態の変化(平成23年)として、正規雇用:結婚前64.2%→結婚後43.6%→第1子出産後19.8%→第2子出産後13.9%といった推移が見て取れます。 先ほどの「総合職20%」がそんなにいい加減に出来上がっている数値でないことが分かってきます。 つまり「東京大学女子学生2割の壁」なる現状には、最低で見積もっても、受験生女子比率20%→在学生女子比率20%→就職後総合職女子比率20%という、需給関係における一通りの「エコシステム」が出来上がっており、掛け声程度のことで変わるわけがない堅固な構造なのです。 何も昨日今日から言い出したことではなく、私自身学生時代からかれこれ40年ほどこの大学と関わりながら率直に思うところであって、社会の一セクターがイメージチェンジを図る程度のことで動くような代物ではない。 だから何もしなくてよいのだなどと言っているわけではないのは、冒頭にも記した通り、現在もっぱら女子ばかりの研究室をこの大学で率いていることでもお分かりいただけると思います。 また、はっきり言って東大がそんなに良い所だとも思っていません。 というのも、総合職向けで専門に必ずしも強くなく、19世紀に日本で最初に作られたこの大学システムが21世紀の人材育成に適しているとはちっとも思わないからです。構造的に凡庸秀才を生むシステム 東京大学という教育機関は、大まかに「文科」と「理科」の学生を分けて採用しますが、それ以上細かな専門を分けず、幅広く深く「一般教養」を身に着けさせる、19世紀以前からの「古き良き?」教養志向の高い大学になっています。 学生は文科砧爐箸理科粁爐箸い辰燭兇辰りとした分類で入学を許可され、針の穴を通すような専門は後回しで、大らかな知的教養の幅を広く身に着ける・・・という建前です。 加えて私などは、そういう東大の中でも教養でうるさい方だと認識されて四半世紀ほど経過しており、以下のようなことを言うとかえって意外に思われることがあります。「東大生は専門に必ずしも強くない」「*学部〇〇学科卒」といっても2年生の後期まではそこに進学が決まっておらず、20歳を過ぎてから初めて「バイオ」だの「法学」だの「電気電子」だの「経済」だのといった専門にタッチする。 逆に言えば、10代いっぱい全く素人だった分野で「にわか専門家」扱いされるようになるのです。 平均点で見ると決して低くない。でもどれか一つ、本当に抜きん出たものがあるかと問われると、ペーパーテストで満点が取れる程度で止まる、凡庸な秀才が大半を占める学校。それが東大の実際の姿です。 太宰治とか三島由紀夫とか大江健三郎といった人が東大OBなのは、たまたまほかに大学が少なく、才能を持った人が受験してくれたからであって、東大は何も育てていない。 京都大学と比較して圧倒的に少ないノーベル賞の数も雄弁な傍証になっている。 高等専門学校とか、あるいは東工大などに入ってくるロボット命少年とか、そういう筋金入りの本物と比較すると、およそ頼りない「全方位外交平均点秀才」が大半を占めています。 それが適宜「管理職」に進む「官学」というのが、現時点でも東京大学の過不足ない現実で、これがそのまま男女比50%になったから、日本が良くなるなんてことは、およそ考えられない。 国会で答弁する女性高級官僚、どうですか? 内容を理解して理路整然と語る人をどの程度見かけますか? 百年一日のごときトートロジー、同語反復の官僚答弁に終始するのは内容をちっとも理解していないからで、その本質は「20歳まで全方位素人」という東大の弱点そのものが現れているからにほかなりません。 四半世紀ほど前、私が東大に着任した際、工学部長だった小宮山宏さんのもとで私が手掛けた人材育成は「21世紀の東大にゼネラリスト養成は要らない。ゼネラルな業務ができるスペシャリストこそ育てるべきだ」という、本質的な施政方針転換がありました。 しかし爾来20余年、日本は、あるいは東大はそんな方向にいささかでも変われたでしょうか? 小宮山さん自身が経産次官室の考えで産業技術総合研究所理事長を忌避され民間の三菱総研へ、といった話はあちこちで喧伝された通りで、日本は「中身が分かり、本当に変革を進めていける人材育成」にちっとも前向きではない。 大過なく前例を踏襲してそつなく書類を右から左に送るオヤジ化したオバサンを量産して、何の意味があるのか?「コトナカレ官僚」が日本をこんな状態に貶めてしまった現実を前に、性別だけ女性で中身がその種の役人管理職を増やして、何か良い変化を期待する方がどうかしています。 また、女性が社会で活躍可能な専門能力を持つべきというのは、父の死後、母の手で育てられた私の個人的信念でもあります。 英語教師という専門能力がなければ、私の母は到底私を今のようには育て切らなかったでしょう。 だから思うのです。東大が過去の体質のまま、女子学生の割合だけ増やすようなアクションをとっても、構造的なエコシステムができていますから身動きなど取りにくい。 そうではない、しっかりした一芸以上のものを身に着けた、パワフルな女性スペシャリストを日本全体が育成していくべきなのです。 そのような中からゼネラルな業務にも向いた女性スペシャリストが輩出し、社会も実質的に変わっていく。 出来上がり切ったこの「エコシステム」に楔を打ち込むのは「圧倒的な現場専門能力」にほかなりません。 例えば音楽の世界は実力本位、依怙贔屓など不正がないとは言いませんが、ジェンダーでは差別になりません。うちの研究室が男女完全平等になる背景でもあります。 打ち込む楔は、まず専門における圧倒的実力。そういう女子を育てる。これに尽きます。「東大が変わらない」と「変わらない日本」などという大前提が根本的に間違っているのです。 幸か不幸か、いまもって同世代国内人口の比較優位な人が受験し続けてくれていることで、東大は何とかその水準を保っているけれど、国際的には地盤沈下も著しい。 優秀な若い人に見向きされなくなったらそれまでで、実際、東アジア全域の優秀な人材は基本、欧米の一流大学大学院を志望して人の流れが出来上がっている。 ここにもエコシステムが成立しているわけです。 実力ある人がそれを発揮して活躍できる社会を作らなければ、何を言っても唇寒しです。 大学の表層だけすこし衣替えして見せたところで、どれほど本質的な意義ある効果が期待できるでしょう? 研究教育の現場当事者としては、一見さんの気を惹く「東大女子」問答の軽薄さばかりが目に付くというのが正直なところです。筆者:伊東 乾
そもそもこの種の議論の困った点は、大学そのものの「不人気」がどこかに棚上げになっていることにあります。
きちんとデータを積み上げて示してみましょう。
まず日本人の男女比、出生時にはほぼ五分五分で(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai08/sankou3.html)、歳を経るにつれ女性の方が寿命が長いですから、男性が劣勢になっていく。
次に大学進学率。平成28年内閣府のデータ(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s05_01.html#:~:text=%E5%A4%A7%E5%AD%A6%EF%BC%88%E5%AD%A6%E9%83%A8%EF%BC%89%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%AD%A6,%E3%81%AF57.1%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82)では、男子進学率55.6%に対し女子進学率48.2%。
これに女子の短大進学率8.9%を加えれば女子全体の「大学等進学率」は57.1%となって男子を抜き、決して女子の教育リテラシーが不当に低く抑えられていないのがはっきり分かります。
では問題の「東京大学」についてはどうなのか?
2022年の東大合格者の男女割合は、東大合格者男子割合80.2%に対し女子割合19.8%となっており、なるほど「2割の壁」を超えられていない。
しかしそれには明確な理由があります。そもそも東大は女子の受験者数が少ないのです。
2022年に関して(https://juken.y-sapix.com/articles/25467.html)は、東大受験生男子割合77.7%に対し女子割合22.3%と、最初から2割強しか東大なんか女子は受けてくれない。
ここに第1の本質的な理由があります。これはこの年だけのことではありません
2019年の東大受験生、男子割合79.3%:女子割合20.7%
2020年の東大受験生、男子割合79.5%:女子割合20.5%
2021年の東大受験生、男子割合79.6%:女子割合20.4%
2022年の東大受験生、男子割合77.7%:女子割合22.3%
つまり東大入試そのものが「男4:女1」という受験生男女比になっており、それをそのまま反映して合格者も4:1あるいは8:2、つまり女性2割という割合が「入力そのまま」の形で反映されているだけと分かります。
「どうして東大受験、女子は少ないの?」というのは、大昔から言われ続けている点で、やれ「東大女子は結婚に苦労する」だの「現浪割合が男3:1に対して女5:1」だの、様々な説が囁かれてきました。
しかし、ここではこれ以上踏み込んでも仕方ないのでやめておきます。
要するに「女子に不人気」なんですね東大は。お店に例えれば、女性に人気のない店がいくら「顧客を増やすぞ~」と鼻息荒く力んで見せても、実際に人気が出なければどうしようもありません。
ではどうしたら、大学は女子学生割合を増やすことができるのか?
一つのカギは「出口」にあります。
一般的な意味で、大学の「出口」は就職になるでしょうから、企業採用の男女比を検討してみましょう。
厚労省のデータ(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-28r-09.pdf)によると、正社員・正職員に占める女性割合は24.8%で、このうち総合職の割合は18.4%となっています。
そして、限定総合職が30.9%、一般職が31.5%、その他が24.1%という数字が確認できます。
これは平均値なので、内閣府の統計(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/gaiyou/html/honpen/b1_s00_03.html#:~:text=%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A15%2C000%E4%BA%BA%E4%BB%A5%E4%B8%8A,%E3%81%AF5.6%EF%BC%85%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82)などでもう少し追って行くと、
女性のライフイベントによる就業形態の変化(平成23年)として、
正規雇用:結婚前64.2%→結婚後43.6%→第1子出産後19.8%→第2子出産後13.9%といった推移が見て取れます。
先ほどの「総合職20%」がそんなにいい加減に出来上がっている数値でないことが分かってきます。
つまり「東京大学女子学生2割の壁」なる現状には、最低で見積もっても、
受験生女子比率20%→在学生女子比率20%→就職後総合職女子比率20%という、需給関係における一通りの「エコシステム」が出来上がっており、掛け声程度のことで変わるわけがない堅固な構造なのです。
何も昨日今日から言い出したことではなく、私自身学生時代からかれこれ40年ほどこの大学と関わりながら率直に思うところであって、社会の一セクターがイメージチェンジを図る程度のことで動くような代物ではない。
だから何もしなくてよいのだなどと言っているわけではないのは、冒頭にも記した通り、現在もっぱら女子ばかりの研究室をこの大学で率いていることでもお分かりいただけると思います。
また、はっきり言って東大がそんなに良い所だとも思っていません。
というのも、総合職向けで専門に必ずしも強くなく、19世紀に日本で最初に作られたこの大学システムが21世紀の人材育成に適しているとはちっとも思わないからです。
東京大学という教育機関は、大まかに「文科」と「理科」の学生を分けて採用しますが、それ以上細かな専門を分けず、幅広く深く「一般教養」を身に着けさせる、19世紀以前からの「古き良き?」教養志向の高い大学になっています。
学生は文科砧爐箸理科粁爐箸い辰燭兇辰りとした分類で入学を許可され、針の穴を通すような専門は後回しで、大らかな知的教養の幅を広く身に着ける・・・という建前です。
加えて私などは、そういう東大の中でも教養でうるさい方だと認識されて四半世紀ほど経過しており、以下のようなことを言うとかえって意外に思われることがあります。
「東大生は専門に必ずしも強くない」
「*学部〇〇学科卒」といっても2年生の後期まではそこに進学が決まっておらず、20歳を過ぎてから初めて「バイオ」だの「法学」だの「電気電子」だの「経済」だのといった専門にタッチする。
逆に言えば、10代いっぱい全く素人だった分野で「にわか専門家」扱いされるようになるのです。
平均点で見ると決して低くない。でもどれか一つ、本当に抜きん出たものがあるかと問われると、ペーパーテストで満点が取れる程度で止まる、凡庸な秀才が大半を占める学校。それが東大の実際の姿です。
太宰治とか三島由紀夫とか大江健三郎といった人が東大OBなのは、たまたまほかに大学が少なく、才能を持った人が受験してくれたからであって、東大は何も育てていない。
京都大学と比較して圧倒的に少ないノーベル賞の数も雄弁な傍証になっている。
高等専門学校とか、あるいは東工大などに入ってくるロボット命少年とか、そういう筋金入りの本物と比較すると、およそ頼りない「全方位外交平均点秀才」が大半を占めています。
それが適宜「管理職」に進む「官学」というのが、現時点でも東京大学の過不足ない現実で、これがそのまま男女比50%になったから、日本が良くなるなんてことは、およそ考えられない。
国会で答弁する女性高級官僚、どうですか?
内容を理解して理路整然と語る人をどの程度見かけますか?
百年一日のごときトートロジー、同語反復の官僚答弁に終始するのは内容をちっとも理解していないからで、その本質は「20歳まで全方位素人」という東大の弱点そのものが現れているからにほかなりません。
四半世紀ほど前、私が東大に着任した際、工学部長だった小宮山宏さんのもとで私が手掛けた人材育成は「21世紀の東大にゼネラリスト養成は要らない。ゼネラルな業務ができるスペシャリストこそ育てるべきだ」という、本質的な施政方針転換がありました。
しかし爾来20余年、日本は、あるいは東大はそんな方向にいささかでも変われたでしょうか?
小宮山さん自身が経産次官室の考えで産業技術総合研究所理事長を忌避され民間の三菱総研へ、といった話はあちこちで喧伝された通りで、日本は「中身が分かり、本当に変革を進めていける人材育成」にちっとも前向きではない。
大過なく前例を踏襲してそつなく書類を右から左に送るオヤジ化したオバサンを量産して、何の意味があるのか?
「コトナカレ官僚」が日本をこんな状態に貶めてしまった現実を前に、性別だけ女性で中身がその種の役人管理職を増やして、何か良い変化を期待する方がどうかしています。
また、女性が社会で活躍可能な専門能力を持つべきというのは、父の死後、母の手で育てられた私の個人的信念でもあります。
英語教師という専門能力がなければ、私の母は到底私を今のようには育て切らなかったでしょう。
だから思うのです。東大が過去の体質のまま、女子学生の割合だけ増やすようなアクションをとっても、構造的なエコシステムができていますから身動きなど取りにくい。
そうではない、しっかりした一芸以上のものを身に着けた、パワフルな女性スペシャリストを日本全体が育成していくべきなのです。
そのような中からゼネラルな業務にも向いた女性スペシャリストが輩出し、社会も実質的に変わっていく。
出来上がり切ったこの「エコシステム」に楔を打ち込むのは「圧倒的な現場専門能力」にほかなりません。
例えば音楽の世界は実力本位、依怙贔屓など不正がないとは言いませんが、ジェンダーでは差別になりません。うちの研究室が男女完全平等になる背景でもあります。
打ち込む楔は、まず専門における圧倒的実力。そういう女子を育てる。これに尽きます。
「東大が変わらない」と「変わらない日本」などという大前提が根本的に間違っているのです。
幸か不幸か、いまもって同世代国内人口の比較優位な人が受験し続けてくれていることで、東大は何とかその水準を保っているけれど、国際的には地盤沈下も著しい。
優秀な若い人に見向きされなくなったらそれまでで、実際、東アジア全域の優秀な人材は基本、欧米の一流大学大学院を志望して人の流れが出来上がっている。
ここにもエコシステムが成立しているわけです。
実力ある人がそれを発揮して活躍できる社会を作らなければ、何を言っても唇寒しです。
大学の表層だけすこし衣替えして見せたところで、どれほど本質的な意義ある効果が期待できるでしょう?
研究教育の現場当事者としては、一見さんの気を惹く「東大女子」問答の軽薄さばかりが目に付くというのが正直なところです。
筆者:伊東 乾