【赤澤 健一】「ウジ、ハエの死骸が床一面に…」体重130キロの男性が孤独死した現場の壮絶…いつまでも消えない「死臭の記憶」

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遺品整理の現場では、いまの日本人、あるいは日本社会の現実に直面させられる。多くの人が、「最期は一人で死んでいく」という現実だ。いま孤独死の現場では何が起こっているのか。日本人の知らない遺品整理の実情を克明に記した『遺品は語る』より、前回に引き続き、孤独死して半年以上だった男性の現場で清掃作業を行った箇所を抜粋してお届けする。
前回記事【孤独死して半年間放置されていた男性…窓一面に大量のハエ…ここまで発見が遅れてしまった「納得の理由」】
現場に行くと、臭い対策の応急処置として、部屋は密閉されている。それでも、排水溝や換気扇が塞がれていないため、そこから臭いが漏れてしまっていた。それが、近隣住民の方々から苦情を受けた原因のようだ。
室内はワンルームながら一〇畳ほどと、作業できる広さはある。しかし玄関を開けると、その一〇畳の部屋全体が、遺体から発生したガスの影響で黄色くよどんでいた。私どもが作業するのは警察の検証などが済んでからだ。もちろん、遺体はすでに回収されていた。だが、残った体液から発生したガスなのだろう。
かなりの悪臭だ。
真偽は定かではないが、この種の腐敗ガスは、臭いがきついのはもちろんのこと、身体にもよくないといわれている。だから、スタッフは必ずガスマスクを着用して作業をする。
作業は閉め切って行い、換気は行わない。窓を開けると、臭いが漏れてしまうからだ。
「異臭で騒ぎになるので、絶対に換気しないでください!」
と、マンションのオーナーからも頼まれている。玄関を開けてやると作業効率がいいのだが、閉めて作業する。
室内は一〇畳全体にラグ(敷物)が敷いてあった。そのラグが、体液や血液で全面的に濡れた状態になっている。死後かなりの時間が経過して発見された場合、その間にご遺体から体液や血液が流れ出してしまうのだ。
私どもが作業に着手した段階で、まだ濡れた状態になっているくらいだから、流出した体液の量はかなり多い。ラグを踏むとしみ出すほどだ。
じつはこの体液の量で、故人が太っていたかどうかもわかる。
太っていると体内から体液がたくさん出て、そのためウジ、ハエの量も多くなる。亡くなられた方は、体重が一三〇キロだったと聞いた。ウジ、ハエの死骸が床一面に広がっていた。
さて、まずは大きな家財道具を外へ運び出す。たんす、サイドボード、テレビ、ほかにはテレビにつなげて使うカラオケ機器ぐらいしかない。一人でカラオケをするほどの歌好きだったのだろうか。
このとき、オーナーから声がかかった。
「悪いけど、エレベーターを使わんといてくれませんか?」
臭いがつくので、エレベーターを使わずに運び出してくれというのだ。どの現場であれ、そうした要請がオーナーからあることは多い。だが、じつはこれはあまり意味がない。家財道具が重いから要望に応えることができないということではない。エレベーターを使っても使わなくても、どこにも臭いはついてしまうからだ。
「階段から下ろしたら、今度は階段にずっと臭いがついてしまいますよ。あとでちゃんと臭いを消しますから、エレベーターで行かしてください」
こうして結局、エレベーターを使うことになった。
問題はラグの回収だ。というのも、そのまま運ぶと臭いがひどいからだ。
こういうときは臭い対策のため、カッターで細断し、袋に詰めてから運び出さねばならない。ラグを細断しながら、「個人の所有物だったのか、マンション備え付け備品だったのか」と、フト考える。
photo by gettyimages
それにしても、臭いの問題はやっかいだ。臭いが漏れないように、玄関を閉め切って作業を進めたりするだけではない。作業後にも専用の薬剤を使って消臭・消毒を入念に実施する。また死臭は、壁紙やフローリングにも染みつく。このときの案件では、部屋中の壁紙とフローリングのすべての張り替えが必要となり、専門の業者を手配することになった。
作業スタッフも同様だ。作業着にも臭いがつき、何度も洗濯しないと取れない。衣類だけではなく、自分の皮膚にまで臭いがついてしまう。三日くらいは取れない。
鼻につく臭いが取れず、思わず石で鼻の奥まで洗ってしまう。臭いの記憶が鼻腔の奥底に残り、時間が経った後も、なにかの拍子にフラッシュバックすることまである。
【住人が「孤独死」「自殺」してしまった賃貸物件オーナーが青ざめた…高額な遺品整理代をオーナーが負担する「ヤバい事情」】に続きます

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