「初任給60万円」「平均年収1750万円」–就活市場でこの数字を聞けば、多くの人は総合商社や外資系コンサル、あるいはAI関連の新興IT企業を思い浮かべることでしょう。ところが、この高給を実現しているのはそのいずれでもありません。
その企業とは、東証プライム上場の「地主株式会社」(旧社名:日本商業開発)。その事業は極めて「地味で、目立たない」のに、とんでもない初任給を実現しているところが驚きなのです。
同社はタワマンを作るわけでも、巨大モールを展開するわけでもありません。やっている事業は一言で言えば「商業施設事業者向けの土地を取得し、それらの事業者に長期で貸す」というものです。これが地主の主力事業です。これなら他でもやっているところはたくさんありそうです。
なぜこのようなシンプルな事業で、異次元の給与水準が成立しているのでしょうか。ここでは地主の初任給のカラクリ、そして地主の少数精鋭かつ、地味だけど儲かる経営内容を分析していきます。
先に誤解を解いておくと、「大卒初任給の月給が一律60万円」という単純な話ではありません。
まずはこちらのエントリー要項をご覧ください。
(出典:地主株式会社 type.就活サイト「26卒対象本選考エントリー」資料より)
これを見ると初任給は50万円とあります。が、その下に「基本給373,250円」+「固定残業代126,750円」=50万円と記載されています。ですから基本給が50万円というわけではありません。
しかし、続けて「固定残業代は残業がない場合も支給」とあり、さらに「超過する場合は別途支給」とあります。際限なく働いた分の残業代がつくわけではなく、決められた残業=月30時間分を残業代として一律支給するのです。これはとても明快であり、新入社員にとってはありがたい残業代です。
さらに別途、住宅手当を月に10万円支給する(24年4月支給。新卒入社から4年間)という太っ腹ぶり。ですから給与50万円+住宅手当10万円=60万円が入社して最初に支給される給料ということになるわけです。これがトータルの初任給60万円のカラクリです。それにしてもこれはなかなかの数字です。
これは他の日本企業と比較してどの程度の数字なのでしょうか。
上記データは2024年4月入社の新入社員初任給データです。サイバーエージェントや日本M&Aセンターの40万円超えの数字が目立ちます。上位10位以上の企業はいずれも32万円を超えており、日本企業の初任給がここ数年高くなってきたことが分かります。
25年4月入社の新入社員の初任給は全国的に上がっており、アイ・アールジャパン(IR・SR支援企業)やシンプレクス・ホールディングス(IT企業)なども40万円超えの状況です。26年4月入社組の初任給はさらに上がることが予想されます。
こうした初任給アゲアゲ状況の中でも、地主の初任給50万が飛びぬけて高いことが分かります。新入社員にこのような高い初任給を支払える「地主株式会社」とはそんなに儲かっている会社なのでしょうか。
地主は5期連続の増益を続けており、25年には過去最高益を達成しています。26年12月期も過去最高益を予想しており、今のところ同社の業績は絶好調を維持しています。
(図表:地主株式会社IRデータをもとに筆者作成)
では同社の生産性はどうなのでしょうか。ここでは従業員1人当たり売上総利益と従業員1人当たり営業利益の推移を見てみます。
同社の25年度の1人当たり売上総利益は1億2102万円、1人当たり営業利益は7414万円と圧倒的な高さを示しています。高生産性で知られるキーエンスの1人当たり営業利益が4484万円(2025年度の連結実績)です。25年3月期キーエンス単体の平均年収は2039万円と、一般企業と比較すれば非常に高い数字ですが、営業利益だけを見れば地主のそれはダントツの高さです。
116人の従業員(営業48人、コーポレート68人)で86億円の営業利益をたたきだしているのですから当然の数字ですが、高い人件費を支払っても十分に利益がでる仕組みがある。それが地主の経営の興味深いところです。
(図表:地主株式会社IRデータをもとに筆者作成)
地主の主力事業は不動産です。しかも建物を建てて儲けるような派手な不動産ビジネスではなく、「土地だけを貸す」という事業、いわゆる「底地事業」に特化しています。
一般的な不動産会社のビジネスは、土地を取得もしくは借りてそこに建物を建て、保有し、賃料を積み上げて収益を上げていくというモデルです。建物を建てることで付加価値をつけることが可能となり、大きな収益を上げられる確率も高くなります。大手ディベロッパーがショッピングセンターやオフィスビル、ホテル、またそれらをミックスした複合商業施設などを開発し、大きな売上高をあげていることからも分かります。
例えば三井不動産グループは総資産約9.8兆円、連結営業収益が2.6兆円という巨大不動産企業です。その収益の内訳を見ると、ビル賃貸、商業賃貸、住宅分譲、投資家向け分譲、ホテル・リゾート、スポーツ・エンタメなど幅広く不動産事業を展開しています。
土地の上にさまざまな建物を建てることにより不動産としての価値をつけ、街づくりまで行っているのが特徴です。テレビCMなどでも見かけることから、広く一般市民レベルまで認知がある企業でしょう。
(出典:三井不動産「決算説明資料」2025年3月期より一部抜粋)
しかし建物を造り、それをもとにさまざまな事業を展開するということは、そこに建築費や修繕費、改装費、減価償却費、空室問題に至るまで、コストとリスクの多くを自社で抱えることとなります。
もちろんこうした負担があるからこそ高い収益をあげられるのですが、中国の不動産バブル崩壊のようなことが起きた場合には致命傷を負いかねません。
一方、地主が展開している事業は建物を所有しない不動産事業です。土地だけに投資し、テナントと長期の定期借地権で契約します。建物の建設や維持管理の負担を原則テナント側(借主側)に置き、地主は「底地(そこち)」から生まれる収益だけに集中するというビジネス、つまり底地事業です。
この底地事業に特化していることこそが地主の最大の特徴であり、高い生産性をあげられている理由です。建物を所有しないことで、昨今の驚異的な建築費高騰や建物の老朽化による大規模修繕といった追加投資を構造的に回避しやすくなり、結果的に高い利益率を確保できるからです。
これが「JINUSHIビジネス」と同社が呼んでいるものです。
(出典:地主株式会社「2025年決算説明資料」より一部抜粋)
JINUSHIビジネスは4ステップで構成されています。
1)土地を買う(仕入)→2)テナントに貸す(長期契約の組成)→3)不動産金融商品として投資家へ売却する→4)金融商品として運用する(リート等を含む資産運用の世界へつなぐ)
これだけです。仕入→テナント誘致→ファンドや地主リートへの売却までを一連で担うこと、そして仕入から売却までを一貫して1人で行うというのが同社の基本スタイルです。
これによって地主は「不動産賃貸業と言うより、長期安定キャッシュフローを商品化(組成)する仕事に近い」(同社)事業となっています。
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【つづきを読む】『新卒で月60万円…!謎多き「地主株式会社」はなぜ日本一の初任給を実現できるのか?その驚異のビジネスモデル』
【つづきを読む】新卒で月60万円…!謎多き「地主株式会社」はなぜ日本一の初任給を実現できるのか?その驚異のビジネスモデル