「党内世論と世論はまったく別だ」
自民党内で「石破おろし」が吹き荒れる中、石破茂総理(68)は周囲にそう語り、意に介さない様子だという。
7月の参院選で惨敗を喫し、石破政権の退陣を求める動きが自民党内で活性化している。一方の石破氏は惨敗直後から「政治空白を生むことがないように責任を果たす」「引き続き責任を持って取り組む」と続投の弁を繰り返す。石破氏の進退を巡って自民党内は揺れ、戦後80年の鎮魂の時期にもかかわらず、両陣営は一歩も引かない様相だ。
そんななか8月8日、自民党本部で、「参院選の総括と今後の党運営」を議題とした両院議員総会が開催。
「関税交渉、農業政策、防災をどうするのか。引き続き、日本国に責任をもってまいるために、色々な意見を賜りたい」
冒頭の挨拶で、石破氏はそう述べ、米国との関税交渉の他にコメ増産体制への転換などの農政改革、防災庁の設立と自身の政策を並べ上げ、続投を主張した。
7月28日の両院議員懇談会は2時間の予定が4時間半に及んだ。今回の総会は2時間と予定通りだったが、早期退陣の声が上がり、総裁選前倒しへと話が進んだ。
総会に参加した青山繁晴参議院議員(73)によれば、総裁選の前倒しの議案が出ると石破氏は不満気な表情を浮かべ、隣の森山裕幹事長(80)に話しかけたという。
「開始から1時間もすると有村治子両院議員総会長(54)が『議題を整理したい。総裁選をすべきか否かに絞った意見をお願いしたい』として議題を絞った。一部続投を支持する意見も出たが、総裁選の前倒しに賛同する意見が相次ぎ、総裁選管理委員会に実施の是非を申し入れることとなった。いまはまだ総裁選管理委員会に委ねられた段階で、実施の是非は不明だが、ステージは一気に変わった。流れは総裁選に向かうだろう」(青山氏)
総裁選の開催が視野に入り、石破政権への退陣圧力が強まったように見える。総裁選管理委員長の逢沢一郎衆議院議員(71)は「自民党の歴史の中で初めてのこと」と戸惑いを隠さずにこう述べた。
「衆参の国会議員と47都道府県の半数を超える求めがあれば臨時の総裁選を行うことはできる。ただ、自民党の歴史にはこうした経験もなく、確認方法の規定もない。まずはきちんとした仕組みを作り上げることが必要だ」
自民党則「6条4項」によるものだが、党所属の国会議員295人と47都道府県連代表で計342人の過半数の172人が賛成すれば、総裁選の前倒しは実現する。反面、総数の過半に満たなければ石破総裁の続投を容認したことにもなろう。
「総裁選を前倒して開催するかどうかを検討することが決まっただけ。前例がない前倒しの総裁選で、各都道府県や議員への総裁選開催の意思確認の方法も不明で、いつどのようにしてやるのか手探り状態だ。11人の委員のうち6人が欠員で、委員会の体制づくりから始めねばならない。対応を一任された逢沢委員長は『俺にも都合はあるから』と即、着手する様子もない。退陣圧力は強まるも、秋までは首がつながった」(全国紙政治部記者)
一方、自民党でも少数ながら擁護派もいる。
土屋品子衆議院議員(73)は「今、辞めてもね」と早期退陣には否定的だ。土屋氏はこう続けた。
「米国との関税交渉も二転三転してますし、(トランプ大統領が)まだ何を言ってくるかわからない。参院選の敗北も『裏金議員の処分が先じゃないか』『裏金を(雑所得として)納税すべき』という声も多く、私もその意見に賛成で、(裏金議員が)身を切る姿を見せないと世間は納得しないと思います」
23年ぶりに自民党に復党した鈴木宗男参議院議員(77)も「総裁選の前に裏金議員の総括が先だ。裏金議員をもう一度処分しないと自民党は信頼を得られない」と旧安倍派を一刀両断する。
自民党内の求心力低下は著しい石破氏。だが、党本部を一歩出ると真逆の現象が起きていた。
両院議員総会終了から2時間半後、日が暮れた自民党本部前で「辞めるな、イシバ!」「俺たちがついているぞ!」「80年談話を聞きたいぞ!」とペンライトの光とともに石破氏へのエールが飛び交う。雨の中、約200人が集まり、3週続けて「石破、辞めるな」のデモが開かれた。
〈石破総理の80年談話が聞きたい!!〉と記されたプラカードを掲げる千葉市から来た72歳の男性は「自分たちで選んだ総裁を自分たちで引きずり降ろすのか」と疑問を呈し、こう語る。
「石破さんは自分の言葉で語れる。8月6日の広島市で開かれた平和記念式典で正田篠枝氏の短歌を紹介し、心の底から追悼していた。コピペで語る総理がいた中、自身の体験に基づき、自分の言葉で語った。80年談話も聞きたくて、ここに来ました。村山談話、安倍談話を引き継いで、そして超える談話を聞かせてくれるはず」
〈#辞めるな石破 辞めるのはこいつら 裏金議員・壺議員〉と記されたプラカードを持つ中野区から来た62歳の男性会社員はこう語る。
「参院選は石破さんだからあの程度の負けで済んだ。負けた責任は裏金議員や統一協会とズブズブな議員の責任だ。選択的夫婦別姓を石破さんはやりたかったと思う。でも党内の保守派に配慮して進められなかった。党内世論を気にせずに石破さんがやりたいようにやったほうが良かった」
NHKの世論調査(8月9~11日)で続投意向について「反対(40%)」を「賛成(49%)」が上回る数字が出ている。さらに、参院選惨敗を喫したにもかかわらず同調査で、内閣支持率が7%アップの38%に上昇。これら世論調査が石破氏の続投宣言の支えにもなっているが、現状は「風前の灯」といえよう。
続投か退陣か。引責辞任と向き合わない石破氏と党内抗争に明け暮れる反石破派。国民不在の権力争いをいつまでやり続けるのだろうか。
取材・文・PHOTO:岩崎 大輔(2、3枚目)