「暑い」以外の言葉が出なくなるほどの夏真っ盛りだが、“これまで以上”なのは暑さだけではない。主要観光地をはじめ、街じゅうに外国人観光客が押し寄せている。その影響を色濃く受けているのは、お寺や神社も同様だ。全国の神社仏閣で今、何が起こっているのか。宗教専門誌『宗教問題』の最新号(50号)で「インバウンドvs宗教」というテーマを扱った、編集長の小川寛大氏が、驚くべき実態を明かす。
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【写真】「DON’T TOUCH」外国人観光客による“迷惑行為”を受けて、富士山の麓のコンビニで設置された「黒い幕」
2024年、過去最高となる3687万人もの外国人観光客が日本を訪れたという。25年には、これが4000万人規模になることがほぼ確実視されている。
日本には現在、かつてない“インバウンド景気”が訪れているとする報道なども多い。しかし同時に、こうした外国人観光客の増加によって、「どこへ行っても混んでいる」「外国人観光客のマナー違反によって日本人の生活が乱されている」などといった観光公害、すなわちオーバーツーリズムの弊害が語られてもいたりする。
それが色濃く表れている一つが、神社仏閣だ。日本の観光地のなかでも特に“魅力的な場所”で、「日本のお寺や神社を訪ねてみたい」とやってくる外国人観光客は数多く、各所で問題が顕在化しつつあるのだ。
すでに、日本の宗教文化やマナーを理解しない外国人が、寺社で暴れるなどして問題を起こす行為が多々報じられている。なかには日本の宗教や文化に対して明確な悪意を持ち、犯行におよぶ外国人もいるようだが、「基本的には悪意というよりも無理解が原因で起こっている」と、ある外国人相手の観光ガイド経験者は語る。
「日本人にとって神社仏閣はやはり『静かに敬うべき大切な場所』だが、多くの外国人にとっては『その他多くの観光地と同じ、ただ遊びに来た場所』。だから羽目を外したイタズラ行為や、“SNS映え”のための迷惑行為などをしてしまう人も出てくる」
そしてこの種の問題は、曲がりなりにもガイドなどがついて回る団体ツアーではそれなりに抑制されており、個人観光客のほうがマナー違反は目立つとの指摘がある。
長崎県対馬市は、地理的な関係もあって以前から韓国人観光客の多い場所だが、この対馬にある有名神社・和多都美神社が25年3月、「韓国人観光客による迷惑行為」を理由に「参拝目的以外での立ち入り禁止」を打ち出して、メディアなどの注目を集めた。現地で取材すると、やはり「個人観光客は団体観光客に比べてマナーが悪い」という声が聞こえてくる。昔から韓国人観光客の多かった対馬の神社がなぜ、こうした強烈な声明を出したのかは一考する価値があろう。
〈有料記事【増えすぎた外国人観光客に悩む「神社仏閣」の驚くべき現状 地方にも広がる「リスク」と意外な「商機」とは】では、インバウンドにおいて団体客が減った理由や、それによる神社仏閣への影響、また地方の無名寺社に外国人観光客が分散している“もう一つの理由”など、宗教界におけるインバウンド業界の新たな側面について詳述している〉
小川寛大(おがわかんだい)宗教専門誌『宗教問題』編集長。ジャーナリスト。1979年熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年より『宗教問題』編集委員、15年に同誌編集長に就任。著書に『池田大作と創価学会 カリスマ亡き後の巨大宗教のゆくえ』(文春新書)、『南北戦争英雄伝 分断のアメリカを戦った男たち』(中公新書ラクレ)など。
デイリー新潮編集部