「双極性障害」を発症した人に現れる特徴をご存じですか?【医師監修】

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監修医師:舘野 歩(東京慈恵会医科大学附属病院)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。現在は「東京慈恵会医科大学附属病院」勤務。専門は精神神経科。日本精神神経学会専門医・精神科指導医、日本森田療法学会認定医、精神保健指定医。東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授。
双極性障害(躁うつ病)は、躁状態と抑うつ状態を繰り返す精神疾患です。躁状態では、気分が高揚して活動的になり、時には社会的に問題を引き起こすことがあります。例えば、過剰な買い物や無謀な投資、あるいは性的な逸脱行動などが見られます。一方、抑うつ状態は、気分が落ち込み、何をしても楽しいと感じられなくなり、日常生活に支障をきたす状態です。食欲が低下して体重が減少したり、逆に過食して体重が増加したりします。また、睡眠パターンが乱れ、不眠や過眠に悩まされることもあります。
双極性障害は、双極I型障害と双極II型障害の2つに分類されます。
双極I型障害少なくとも1回の完全な躁状態うつ状態も経験あるが、うつ状態の有無は問わない
双極II型障害少なくとも1回の軽度の躁状態(軽躁状態)複数回の抑うつエピソード
双極I型障害は激しい躁状態を伴い、日常生活や社会活動に重大な支障をきたします。一方、双極II型障害は軽度の躁状態(軽躁状態)を伴い、うつ状態が主な症状となります。軽躁状態では、気分が高揚して活動的になるものの、双極I型のような極端な行動は見られません。しかし、双極II型の患者さんも、抑うつ状態になると非常に苦しい思いをします。
双極性障害は、10代~30代で発症することが多く、有病率は約1%です。男女差はなく、誰にでも発症する可能性があります。また、双極性障害の患者さんは、躁状態や抑うつ状態の間に正常な気分の期間があることもありますが、再発を繰り返すことが多く、長期的な治療と管理が必要です。
双極性障害の原因は完全には解明されていませんが、体質的要因と環境的要因、神経伝達物質が関与していると考えられています。
双子での研究によると、双極性障害の遺伝率は70~90%で、遺伝によって発症するリスクが高くなることを示唆しています。しかし、特定の遺伝子が原因であるとは断定されていません。
環境的要因やストレスも発症の引き金になります。胎児期に母親のインフルエンザ感染や喫煙が影響するほか、小児期の逆境体験なども主な要因です。また、過度のストレスを感じるできごとの後に発症するケースもありますが、因果関係は証明されていません。
脳の神経伝達物質の異常も双極性障害に関与しているとされています。特に、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが乱れることで、躁うつのように極端な気分の変動が引き起こされるのです。
双極性障害の前兆として、抑うつ気分(憂うつや気分が沈む)や無気力感、思考力の低下、焦燥感などが見られるようになります。かと思えば、睡眠時間が少なくても元気に活動できたり、次々といろいろな活動に参加してみたりと、抑うつ状態と躁状態を繰り返す症状が特徴的です。過度な自信な言動が急に積極的になるなど、周囲の方から「いつもと違う」と指摘されることがあれば、躁状態になっていないか疑ってみてください。
一方、抑うつ状態は精神症状だけではなく、食欲の低下や睡眠障害などが現れます。これらの症状が2週間以上続く場合、抑うつ状態と診断され自殺願望が強くなることもあり、早期の対応が必要です。
これらの症状がみられた場合、 精神科、心療内科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
双極性障害の診断でまず行うのは問診です。患者さんの自覚症状やこれまでの経過、気分の変動や行動のパターンなどを詳しく聞き取り、躁状態や抑うつ状態のエピソードがあるかどうかを確認します。家族歴や過去の精神疾患の有無も診断の参考にします。例えば、家族に同様の症状を持つ人がいる場合、その情報は診断において重要な手がかりとなるでしょう。
診断には、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)などの診断基準が用いられます。DSM-5は、精神疾患の診断において広く用いられる基準であり、双極I型障害や双極II型障害の区別が行われます。例えば、双極I型障害は、少なくとも一度の完全な躁状態のエピソードがあることが診断基準です。一方、双極II型障害は、軽躁状態と少なくとも一度の抑うつエピソードが診断基準となります。
さらに、他の精神疾患や身体疾患が原因でないことを確認するために行うのが、血液検査や尿検査、画像検査などです。これにより、甲状腺機能低下症や脳腫瘍などの身体的な原因を除外できます。また、薬物の影響を確認するために、薬物スクリーニングを行うこともあります。
双極性障害の治療は、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせて治療を進めていきます。
薬物療法では、気分安定薬(リチウムやカルバマゼピンなど)が主に使用され、躁状態や抑うつ状態の症状を抑える効果があります。急性の躁状態には、非定型抗精神病薬(オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピンなど)が使用されることもあります。また、抗うつ薬も併用されることがありますが、うつ状態から急激に躁状態に転じるリスク(躁転)があるため、使用時には注意が必要です。
双極性障害の際に処方される気分安定薬と抗精神病薬を、以下にまとめました。
気分安定薬リチウムバルプロ酸カルバマゼピン
非定型抗精神病薬オランザピンアリピプラゾールクエチアピン(保険適用外)リスペリドン(保険適用外)パリペリドン(保険適用外)アセナピン(保険適用外)
定型抗精神病薬クロルプロマジンスリトプリドハロペリドールレボメプロマジンチミペロン(注射剤のみ適用)ゾテピン(保険適用外)
気分安定薬と抗精神病薬の併用気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなど)に抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなど)を追加すると抗躁効果が得られる
心理社会的治療には、心理教育や作業療法、レクリエーション療法、社会生活技能訓練(SST)などがあります。心理教育では、患者さん自身が病気について正しい知識を身につけ、自分の症状を客観的に捉えられるようになるのが目的です。これにより、症状の再発を予防し、日常生活の質を向上させることが期待されます。作業療法やレクリエーション療法、SSTは作業療法士が中心となって取り組み、作業を通して社会との接点を作っていく治療法です。患者さんが自信を持って社会に出ていける精神状態を養う目的があります。
ケアラ―の治療参加は、患者さんの再発予防や予後の改善につながると同時に、結果的にケアラーの負担を軽減する効果が期待できます。ただし、ケアラー自身に負担がかかってしまう可能性もあるため、医療者は十分な配慮が必要です。そのため、ケアラーの現状の聞き取りやケアラー自身がどのようなケアを受けているか情報収集し、必要に応じて専門機関への橋渡しもしていく必要があります。特に18歳未満のヤングケアラーは、実態の把握が困難なため問題が表面化しにくく、医療者のみならず児童相談所などと連携して課題に当たっていかなければなりません。
ここでは、双極性障害になりやすい人や予防方法について解説します。
双極性障害になりやすい人には、遺伝的要因が関与していることが多いです。家族に双極性障害の患者さんがいる場合は発症するリスクが高まります。また、ストレスに対する敏感さや弱さも影響を与えることがあります。例えば、過去に重大なストレス体験やトラウマを経験した人は、双極性障害の発症リスクが高まるとされています。
予防の方法としては、ストレスを適切に管理することが重要です。規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠をとりましょう。例えば、毎日同じ時間に寝起きし、食事や運動を規則的に行うことで、生活リズムを整えることができます。また、アルコールや薬物の乱用は、気分の変動を悪化させることがあるため、避けたほうが良いです。
一度双極性障害を発症してしまっても、早期に専門医の診断を受け、適切な治療を受けることが再発防止につながります。また、ストレスへの対処法を身につけ、自分の再発の初期徴候を自覚しておくことも大切です。例えば、気分の変動が激しくなる前兆を察知し、早めに医師に相談することで、症状の悪化を防ぐことができます。

躁状態
抑うつ状態
うつ状態
双極I型障害
双極II型障害

参考文献
こころの情報サイト|双極性障害
双極性障害|e-ヘルスネット厚生労働省
日本うつ病学会診療ガイドライン
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/132021/201307023B/201307023B0013.pdf

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