筆者が埼玉県内のとあるコンビニエンスストアで公共料金を支払うべく、財布の中にあった何枚もの1000円札を使おうとしたら“事件”が起きた。このコンビニは店員が商品のバーコードの読み取りを担当し、客が紙幣を機械に入れるタイプのセミセルフレジを導入している。1000円札を続けて投入したところ、ガタガタッと異音がして紙幣が詰まり、機械が止まってしまったのだ。
【写真】詰まる原因は輝く肖像にあった? 新紙幣に搭載された偽造防止ホログラムの様子
店員が慌てて詰まった紙幣を取り出そうとしたが、機械の中でぐちゃぐちゃになっていたため手間取り、なかなか復旧できない。筆者も何枚紙幣を入れたのかわからないので、困惑である。しかも払いたくもない公共料金を余計に多く取られたらたまらない。5分ほどかかってどうにか復旧したものの、正確に紙幣がカウントされたのかどうかはよくわからないままだった。
店員は丁寧に謝罪しながら、「この機械は、新紙幣をいっぱい入れると詰まるんですよ……」と言い、「新紙幣には私たちも困っているんです……」と話してくれた。コンビニは効率化のためにセミセルフレジを導入しているはずだ。しかし、新紙幣が詰まりやすいのであれば、かえって店員の手を煩わせている気がする。店員に詳しく話を聞いてみた。
――新紙幣が機械に詰まりやすいというのは、本当ですか。
店員:はい。野口英世の旧1000円札の時も詰まることはありましたが、北里柴三郎になってからその何倍も詰まりやすくなりました。そのたびにコピー機みたいに機械の蓋を開けてお札を取り出しているのですが、今回のようにお客様が何枚お札を入れたのかわからない場合、「ネコババしているんじゃないだろうな!」と言われるなど、トラブルに発展するケースがありました。
――紙幣が汚れていたり、折れ目が多かったりすると詰まるのでしょうか。
店員:いえ、新紙幣は発行されてからそんなに時間が経ってないですよね。目立った汚れがあるものはほとんど見かけませんから、汚れは関係ないと思います。私がこれまで遭遇したパターンでは、折れ目があっても、ピン札でも詰まっているので、どんな状態でも詰まりやすいのだと思っています。
――では、何が原因と推測されますか。
店員:これは私の憶測なのですが……。ホログラムが原因ではないでしょうか。新1000円札の隅っこについているキラキラしたやつですね。これがどうも、紙幣を読み取るときにトラブルを起こしているのではないかと思います。旧1000円札にはホログラムがなかったので、どうしても疑ってしまいます。
――確かに、新札と旧札の大きな違いはホログラムですね。
店員:ホログラムの周りのつるつるしたテープみたいなものが、機械を誤作動させている気がします。ホログラムに折り目や傷がついたりしていると読み込めないことがありましたが、傷がついていないものでも詰まっているので、関係ないのかもしれませんが。
――今回は1000円札でしたが、5000円札や1万円札も詰まることはあるのでしょうか。
店員:あります。とにかく新紙幣は全般的に詰まりやすいと思います。1日に何回も詰まったことがあるので、店員としては使ってほしくないくらいです。今回はお客様にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ただ、私たちも本当に困っているんです……。どうか、ご理解いただけるとありがたいです。
調査を進めると、新紙幣が詰まりやすいのはコンビニだけではないらしい。JR東日本の駅員でみどりの窓口で切符を販売するT氏によると、「指定席券売機でも詰まりやすいし、もちろん窓口の機械でも頻繁に詰まります」とのことだ。こちらもやはり、旧紙幣とは比べものにならないほど詰まるらしい。そして、こうも語る。
「券売機や窓口の売上金をまとめるために後から大き目の機械に入れるのですが、新紙幣は本当によく弾かれます。旧紙幣の頃は明らかにぐしゃぐしゃだったり、破れていたりするものが弾かれていました。ところが、新紙幣はピン札が弾かれるんですよ。なので、わざと折り目を付けたり、ピン札の塊は1枚1枚剥がして読み込ませたりと、今までより処理に手間がかかるのでイライラします」
あくまでも推測であるが、どうも“悪さ”をしているのは、先のコンビニの店員も指摘していたホログラムの可能性がある。旧紙幣では1000円札と2000円札を除き、5000円札と1万円札に採用されていた。今回発行された新紙幣にはすべての券種で採用されているだけでなく、その面積も大幅に拡大し、より複雑な仕様になっているのが大きな変更点だからである。
ホログラムといえば、紙幣を傾けると渋沢栄一が動いて見える技術も話題になった。国立印刷局は「世界で初めて搭載される偽造防止技術」と胸を張り、マスコミにも宣伝させるなど、自信作として押し出していた。ただ、紙幣の上にテープ状のもので貼り付けているため若干の厚みがあり、周りにコーティングのようなものが施されている。さきのコンビニ店員が指摘したように、これが機械と相性が悪い原因かもしれない。
このたびの新紙幣の発行に際し、国立印刷局は「準備期間を長く持たせるため」と言って5年ほど早めにデザインを発表した。その割には、自動販売機やバスの運賃箱など、新紙幣に機械が対応するには時間がかかった。現在はだいぶ解消されつつあるが、いまだに「新紙幣は使用できません」という機械を見かけることがある。
新紙幣と機械の相性が悪い理由は定かではないものの、ハイテクな偽造防止技術のせいで、かえって機械に不具合を起こしているとしたら本末転倒ではないか。そう考えると、“紙幣も機械も欠陥商品”と疑いの目を向けざるを得ない。5年間の準備期間はいったいなんだったのだろうか。十分なシミュレーションは行ったのだろうか。
最近、新幹線の連結器が外れる事故など、日本のモノづくりの根幹を揺るがす事件が数多く発生している。日本の紙幣も、職人技が結集した技術力の結晶だったはずだ。それがトラブル続きで、利用者から不満が相次いでいるのは悲しい限りだ。ましてや、ピン札が機械に弾かれるなど、まったくもって意味不明である。早急に原因の究明を求めたいと思う。
取材・文=宮原多可志
デイリー新潮編集部