夫を見送って10年。「彼のものがあった部屋を改装して会計事務の部屋に作り替えました」という村上さん(写真:『料理家 村上祥子式 食べて生きのびる 食べ力』)
82歳の料理研究家・村上祥子さんは「ちゃんと食べてちゃんと生きる」をモットーに、日本国内はもとより、ヨーロッパ、アメリカ、中国、タイ、マレーシアなどでも、「食べ力(ぢから)」をつけることへの提案と、実践的食育指導に情熱を注いでいます。そんな村上さんの著書『料理家 村上祥子式 食べて生きのびる 食べ力』から一部を抜粋してお届けします。
私は現在82歳です。料理研究家として仕事を始めてから50年がたちました。
大学では家政学部で食物学を専攻しました。食品成分表が面白くて夢中で読み込み、多くのことを学びましたが、栄養士の仕事にはそれほど魅力は感じていませんでした。卒業後、すぐに結婚。ちょうどその頃、管理栄養士の国家資格制度ができて、夫から取得を勧められたのですが、興味がわかずに、試験を受けることはありませんでした。
その後、社宅で夫の同僚の妻(アメリカ人)に日本の家庭料理を教えたのをきっかけに料理の先生になりましたが、1年後には夫の転勤で大分へ。4年後東京に戻り、「カリフォルニアアーモンド 料理コンテスト」に入賞。料理研究家としての活動の場が増えました。
母校の大学で栄養指導実習講座の非常勤講師になったときに、「栄養士養成学校で教える自分が資格を持っていないのはおかしい」と思い、猛勉強をして無事、管理栄養士の国家試験に合格。47歳のときでした。
栄養学の世界では、日々新しい情報が発信されています。最新の情報をいち早く得られるだけでもわくわくしますが、その知識をどうやって日常の料理におとしこむか、工夫を重ねてレシピを作り上げるのは、とてもやりがいのある仕事です。管理栄養士の資格を取ったことで、料理家としての仕事の幅が広がりました。
糖尿病治療食の開発段階で、電子レンジに着目したのは40年前。油控えめでも短時間でも美味しくできあがる電子レンジ調理に着目し、多くのレシピを開発してきました。ごはんも炊けて、味噌汁、煮物、焼き魚もできる電子レンジはシニアの個食にもうってつけ。まだまだアイデアはつきず、常に新作料理を考えています。
私生活では“よき相棒”として長年私の仕事を見守ってくれていた夫に先立たれて10年。一人暮らしも長くなりました。
今まで病気知らずで元気に過ごしてきましたが、ここ数年、40年前の慢性顎骨骨髄炎の手術後、歯の不具合が長引いて野菜が噛みづらくなったり、仕事場で滑って大腿骨を骨折をしたり、と体のトラブル、アクシデントも経験しました。私自身が「食べ力」の大切さを再認識している日々です。
とはいっても、朝昼晩の3食をいちから料理するのは大変なこと。まわりの知人たちには年を重ねて、食欲も料理を作る気力も減退している人が増えています。
料理を仕事にしている私も、自分の食事としては、実はそんなに凝ったものをつくっているわけではありません。村上祥子式「リアルな1日3食」をご紹介します。
朝ごはんは定番セットを決めています。
●玄米・白米ミックスごはん(1:2の割合で合わせて炊き、小分けにして冷凍しておく)
●自家製「1人分冷凍パック」(肉か魚を50グラム+野菜100グラムをフリーザーバッグに入れて冷凍しておく。残った食材で様々な組み合わせを作っておくと便利)を使ってレンチンみそ汁。パックの中身を器に移し、水120mlと液みそ大さじ1を加えて電子レンジで6分加熱。
●納豆、卵、チーズ、漬物などたんぱく質食材や発酵食品を冷蔵庫からだして並べる。
発芽玄米・白米ミックスごはんを中心に、野菜たっぷりの味噌汁、納豆、チーズなど。バランスのとれた組み合わせを定番化しています(写真:『料理家 村上祥子式 食べて生きのびる 食べ力』)
1日の途中である昼ごはんでは、炭水化物の補給を心がけます。麺類が好きです。最近は市販のパスタソースが美味しくて驚きます。カルボナーラ、アラビアータ、和風しょうゆガーリックなど、数種類そろえておき、その日の気分で選びます。
大好きな麺は消化がよくて味のバリエーションも豊富なので、お昼によく食べます(写真:『料理家 村上祥子式 食べて生きのびる 食べ力』)
パスタ以外でもそうめんのつゆに納豆をプラスしたり、甘辛の油揚げを添えてきつねそばにしたり、手をかけないで、腹ごしらえをすることも多いです。
夜ごはんの炭水化物は朝と同じ玄米・白米ミックスごはんを。たんぱく質は市販のおかずを利用することもあります。袋入りのおでんは、さつま揚げ、ゆで卵、大根、こんにゃくと、素材のバランスがとれているので、よく食べます。
冷凍した青菜をレンチンして添え、野菜のボリュームを増やします。これが簡単バージョンの夕食。その日の気分や時間の余裕によって食べるものは変わってきます。
市販のおかずにレンチン野菜で栄養バランスをとるのが基本です。ときには少し贅沢気分を味わうときも。 好きなお刺身を一枚ずつたれにくぐらせ、きれいに並べた海鮮丼は見た目も華やかです(写真:『料理家 村上祥子式 食べて生きのびる 食べ力』)
おいしい刺身が食べたくなったときは、好みの刺身を買って、しょうゆとみりんを合わせたたれに1枚ずつくぐらせて、ごはんの上に並べます。もみのりやしその千切り、わさびを添えて、ゆっくりと味わいます。
料理をがんばりすぎる必要はないのです。定番セットを決めたり、市販品や電子レンジを上手に利用しながら、とにかく日々食べ続ける。手抜きの工夫も食べ力の一部だと思います。
(村上 祥子 : 料理研究家、管理栄養士)