中国でスパイ罪に問われたアステラス製薬社員、懲役3年6月の実刑判決…金杉大使「透明だと考えられる内容ではない」

【北京=東慶一郎】2023年に中国で拘束され、スパイ罪で起訴されたアステラス製薬社員の日本人男性(60歳代)に対し、北京市第2中級人民法院(地裁)は16日、懲役3年6月の実刑判決を言い渡した。
傍聴した金杉憲治・駐中国大使が明らかにした。男性はどのような行為が問題視されたのか不明で、日本政府は早期釈放を強く求めていた。日中両国の人的往来への影響は避けられない。
金杉氏は16日、「首脳や外相をはじめ、あらゆるレベルで邦人の早期釈放を強く求めてきたが、このような有罪判決が出されたことは極めて遺憾だ」と北京で記者団に述べた。判決公判は約15分で終了したといい、男性の意向として詳細は明らかにしなかった。「一定程度の説明はあったが、我々が透明だと考えられる内容ではなかった」とも語った。
関係者によると、男性は中国勤務の任期を終えて帰国しようとしていた23年3月、北京でスパイ摘発機関の国家安全当局に拘束された。24年8月に起訴され、同年11月に同法院で初公判が行われた。
男性は中国での勤務歴が長く、現地の日系企業で作る経済団体「中国日本商会」の副会長を務めた。事件が現地の日系企業関係者に与えた衝撃は大きく、日本政府は男性の早期解放を繰り返し求めてきたが、中国側は応じず、司法手続きを進めた。
共産党の統治体制維持を含めた「国家の安全」を最優先課題に掲げる習近平(シージンピン)政権は14年、反スパイ法を施行してスパイ摘発を強化した。15年以降、「スパイ行為」などを理由に拘束された日本人は少なくとも17人に上る。
一部は起訴に至らずに釈放されたが、起訴されたケースでは全て有罪判決が言い渡されている。今年5月には50歳代の日本人男性が上海の裁判所で懲役12年の実刑判決を言い渡された。アステラス製薬社員の男性を含め、いまだに5人の日本人が中国国内で拘束されている。
金杉氏によると、今回の判決を受け、日本外務省から在日本中国大使館に対し、拘束邦人の早期釈放や司法プロセスの透明性向上を改めて申し入れた。金杉氏は16日午後、今回判決を受けた男性に領事面会する。